高天原(たかまのはら ※天上の神々の国)にいらっしゃる皇祖神
(すめみおやのかみ ※親神様)の御命令によって、八百万(数多く)の
神々が一堂に集まり、幾度も議論が重ねられた。
こうした神々による会議・相談の結果、
皇御孫命(すめみまのみこと=瓊々岐命 ににぎのみこと)は
豊葦原瑞穂国(とよあしはらのみずほのくに=日本国)を平和で
穏やかな国として統治しなさい、とお任せになった。
しかし、豊葦原瑞穂国には、素直に従う神もいれば、
ご威光に従わず荒れ狂い暴れ回り、恭順を示さない神々もいた。
そこで、瓊々岐命はそうした神々に『なぜ従わないのか』
ということを幾度も問われたあと、それでも反抗して
従わなかった神々を徹底して討伐し、追い払われた。
こうして、荒ぶる神々だけでなく、言葉をしゃべっていた岩や樹、
一片の草にいたるまで、その言葉をやめて静かになったように
国土が平穏になったので、瓊々岐命はその玉座を発たれ、幾重にも
重なってたなびく雲を激しく千切るようにかき分け押し分け、
高天原から地上に降臨された。
瓊々岐命はこのように統治を命じられた国において、
「倭(大和)の国」を都と定められ、統治の中心地とされた。
そこで、倭の国の中心にあたる場所に、地中深く穴を掘り、
そこに宮殿の太く立派な柱をどっしりと差し立てられた。
また、屋根の上にはあたかも高天原に届くかのように
千木を大空高くそびえ立て、荘厳で立派な宮殿を
お造りになり、天照大御神の御加護を受けて、宮殿にお入りになった。
さて、平安に治めるこの国(日本国)の、極めて優秀な国民たちが、
過って犯すであろうさまざまな罪穢、天つ罪・国つ罪など
沢山の罪穢が現れるであろう。
このように多くの罪穢が出るならば、
高天原の天照大御神が行われる天津神の神秘な儀式にならい、それと
同じやり方で、神事に使う祓物(はらいもの)・撫物(なでもの)として、
数多くの堅い木の根本と先端を切り取って適度な大きさ長さに
切りそろえて、机の上に置き、また、清らかな麻の根本と
先端のところを切りそろえて適度な長さにして、今度はそれを
八つ裂きに切り裂き散らして(祓の神事をおこない)、天津神が授けた
きわめて効力の高い、神聖で完全な祓の祝詞を唱えなさい。
このように祓の祝詞を唱えたならば、天津神(天上の神)は
高天原の宮殿の磐門(御門)をお開きになり、天にかかる
幾重にも重なり合った雲を御威勢で押し分けかき分けて、
その詞をお聞きくださるでしょう。
国津神(地上の神)は高い山や低い山の頂上にお上がりになって、
たちのぼる雲や霧や霞をかき払ってお聞きくださるでしょう。
このように天津神・国津神がお聞き届けくださるならば、
罪と名が付くものは一切残らず全て消え失せるだろう。
それはまさに、あたかも強い風が幾重にも重なり合った雲を
吹き飛ばす如く、朝夕の風が朝夕に立ちこめる霧を
吹き払うように、大きな港につながれている
大船の舳先(へさき・船の先端)や艫(とも・船尾)の綱が
解き放たれて大海原に押し放たれるように、見渡す限りの
繁茂した木々を、焼いて鍛えた鋭い鎌でことごとく
薙ぎ払ってしまうように、あらゆる罪を一切残らず
消え去るようにと祓い清められた。
こうして祓い清められた全ての罪は、高い山・低い山の
頂から勢いよく流れ落ちて渓流となっている急流にいらっしゃる
瀬織津比売と呼ばれる女神が大海原に持ち去ってくださるだろう。
このように瀬織津比売によって持ち出された罪を、今度は人が
近づけないほどの大海原の沖の多くの潮流が渦巻くあたりにいらっしゃる
速開津比売という勇ましい女神が、その罪をガブガブと呑み込んで
しまわれることだろう。
このように速開津比売によって
呑み込まれた罪は、今度は海底にあって根の国・底の国へ
通じる門(気吹戸)を司る
気吹戸主といわれる神が根の国・底の国(黄泉の国)に
気吹によってフゥーっと息吹いて地底の国に
吹き払ってくださるだろう。
このように気吹戸主によって
吹き払われた罪は、今度は根の国・底の国にいらっしゃるパワー溢れる
速佐須良比売という女神がことごとく受け取ってくださり、
どことも知れない場所へ持ち去って封じてくださるだろう。
このように、あらゆる罪穢をすっかり消滅させて浄化して
くださるならば、この世界に罪という罪は一切ありません。
このようにいたしますので、私どもが『祓え給え清め給え』
と申し上げる(祓の神事をおこなう)ことを、よくよくお聞き届けくださり、
どうかお力をお授けくださいますようにと、慎んで申し上げます。